数年前に映画館で体験したお話です。
八月も半ばの暑い日のこと、友人と映画を見る約束をしていたので、地元の小さな映画館に来ていました。


 私は映画の最中にトイレに行きたくなり、途中で抜けると展開が分からなくなってしまうというのが嫌な性分なので
「映画の前だしトイレ行ってくるね。」
と友人に告げました。すると友人は
「私はトイレの前のベンチに座って待ってる。」
と言い、ベンチに腰掛けました。
田舎なので夏休みとは言えども人が少なくトイレも薄気味悪かったので1人で行くのはなんとなく嫌でしたが、中学生にもなってそんなことを言えるはずもなく
「ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」
とトイレに向かいました。


 トイレには私以外誰もいなかったので一番奥の個室にサッと入り、済ませました。
そしてズボンを履こうとしている時に、トイレのドアが

ドンドンドンドンドンッ!!

と激しく叩かれました。とても驚きましたが、学校の友人間で誰かがトイレに入っている時にイタズラをして反応を楽しむというのがある種の遊びの様に流行っていたので、ベンチで待っていた友人がそれをやってきたのだとすぐに思いました。

「も〜!すぐに行くからもうちょっと待ってよ〜」

笑いながらこちらからもドアをドンッと叩くと、その音はピタッと止まりました。

あまりにも急に静かになったのでおかしいな、普通なら向こうも笑ってくるはずなのにと思い不安になりました。


 そして次の瞬間、トイレの上の隙間から手がヌッと伸びてきてドアの内側を掴み激しくドアをこじ開けようとするかのように

ガタガタガタガタッ!!!!

と揺らしてきました。
なんとなく感じていた不安感が恐怖に変わりましたが、おかしな人がイタズラでやっているのだと思い
「やめてください!警備の人を呼びますよ!」
と強気に言うと手はサッと引っ込み、また辺りは静寂に包まれました。

なんだったんだろう、もうどこかに行ったかなと緊張感に駆られていると、足音が聞こえ

「トイレまだ?映画始まるよ〜。」
という友人の呼びかけが聞こえました。


 私はトイレから出ると、ドアの前にいた友人に
「トイレに誰か出入りするの見なかった?とんでもない目にあったわ…。音結構大きかってんからもっと早く様子見に来てくれたら良かったのに!」
とすこし恨みごと

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