家に帰り、扇風機をつけると、隣から


「うるせえよ!!」


と怒鳴り声が聞こえる。


私は、


「また、『扇風機おじさん』か。」


と思い扇風機を切る。






皆さんは「騒音おばさん」を覚えているだろうか?


何年か前に布団をバンバン叩いて話題となった人物である。


「おばさん」が「騒音おばさん」になった理由は知らないが、「扇風機おじさん」の場合は明白である。


それは、下の階の住人とのトラブルである。


「扇風機おじさん」の下の階の住人は物音に異常なほど敏感な男で「扇風機おじさん」が少しでも音を立てようものなら下の階から「扇風機おじさん」の部屋の床(下の階の住人にとっては天井)をガンガン殴ってくるのだ。


しかも午前四時から。


この下の階の住人の異常な行動により「扇風機おじさん」は誕生したのである。


そして、「扇風機おじさん」は下の階の住人と同様に物音に異常に敏感になり、隣の部屋の私が扇風機をつけただけで


「うるせえよ!!」


と怒鳴るようになったのである。




ここで疑問なのが


なぜ、「扇風機おじさん」は私が扇風機をつけたことに気づくのか?


ということだ。


普通に考えて、扇風機の音が隣の部屋に聞こえることはない。


もしかして盗聴しているのか?


と考えたが、そんなことをしても何の意味もない。


また、「扇風機おじさん」は忍者なのではないか?
忍者だからどんな物音も聞き取ることができるのではないか?


とも考えたが、この時代、忍者では食べてゆけないであろう。






そんなこんなで、「扇風機おじさん」が引っ越してきて2か月がたった。


6月は梅雨時期のため夜は寝苦しい。と言ってクーラーをつけるにはまだ早い。


私はどうしても扇風機をつけたくなった。


私は、


「また『うるせえよ!!』が飛んでくるんだろうな」


と若干憂鬱な気持ちになりながら扇風機をつけた





しかし…





「うるせえよ!!」が飛んでこない。


私は、


「いないのかな?」


と思い、恐る恐るベランダを覗いた。


するとそこには信じられない光景があった。





なんと、「扇風機おじさん」がベランダでクルクルクルクル回っているのだ。






「扇風機おじさん」が「扇風機」になっているのだ。





私の頭の中をいろいろなことが駆け巡った。

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