もう25年も前、8歳の小学生だった頃の話です。
およそ5キロの距離を一人歩いて学校から帰っていました。理由は忘れましたが、その日はいつも一緒に帰る友達2人が先に帰っていました。

あと少しで家に着くというところで、前からその二人の友達が歩いて来て言いました。「不良みたいなお兄ちゃんが家の前で探してたよ。」
多分怖がらせようとしてからかっているのだろう思い、気にせず家に向かって歩いていくと、本当に家の前に背の高い知らないお兄ちゃんが立っていました。

「お前〇〇の弟?」お兄ちゃんは低い声で言いました。
今思えばおそらく20歳に満たないくらいの青年だったと思うのですが、見上げるような身長に茶色い髪、そして大人びた声に圧倒され、私は素直に「はい」と答えました。
〇〇は私の7歳年上の姉の名前でした。

お兄ちゃんは自分が姉の彼氏だと言いました。家に誰もいないと告げると、家の中で一緒に遊ぼうと言ってきました。どうやらうちが共働きで夕方まで誰も帰ってこないことを知っているようで、お姉ちゃんが戻るまで中で待つと言いました。

私はお兄ちゃんに言われるまま、お兄ちゃんを家に上げ、一緒にテレビを見たりパンを食べたりして3時間ほど過ごしました。緊張していた私にとってはもっと長い時間のように感じました。

結局夕方になっても姉は帰ってこず、母が帰ってくる6時になると、お兄ちゃんは「〇〇によろしく」といってスッと帰って行きました。すぐに母が帰って来ましたが、何だか怒られそうな気がしてお兄ちゃんの事は言いませんでした。

姉が夜になって帰ってきたので、姉の部屋にいってお兄ちゃんに会ったことを伝えました。
すると、話を聞いた姉の顔色がみるみる変わっていき、身体が震え始め、とうとう泣き出してしまいました。

その後二度とあのお兄ちゃんを見ることはありませんでした。
まだ、ストーカーという言葉がなかった時代の話です。

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