俺は今、追いかけられている。
出口など無いであろう迷路のような建物の中で、俺は必死で逃げる。
この屋内も薄暗いが、それよりも更に暗い、まさに闇そのものと言える『黒い太陽』に俺は追いかけられている。
「はぁ、はぁ。ちくしょー!」
あまりの怖さに、自然と涙が溢れてきた。
「何なんだよアイツ!マジでヤバい、死にそう…」
そう思うと同時に、何気ない彼女との会話を思い出す。
まるで走馬灯のようだった。
…
彼女「『最強の妖怪』って何か知ってる?」
俺 「さぁ…。『ぬらりひょん』とか『九尾の狐』じゃなかったっけ?」
彼女「ノンノン♪」
彼女は人指し指を横に振る。
彼女「今はね『空亡』ってのがいるんだよ」
俺 「 そらなき ? 知らねーぞ、そんな妖怪」
彼女「そりゃね。なんか最近 出てきた妖怪らしーの」
俺 「え?『近年 作られました』的な妖怪ってことか?それってありなのか?」
彼女「全然ありでしょ。じゃあ『首なしライダー』とかどうなるのよ?」
俺 「それって妖怪なのか?」
彼女「得体の知れないものはみんな妖怪だよ。リングの『貞子』とか『口裂け女』とか、あと『八尺様』だってそうでしょ?」
俺 「まぁ、確かにな(八尺様ってのは知らんけど…)。でも最近 出てきた分際で“最強”って言い張るのは、ちとマズいだろ…」
彼女「『全ての妖怪を押し潰す漆黒の太陽』らしいよ、なんか最強っぽいじゃん。そもそも妖怪なんて最初から全部 実在しないんだから。そんな小さなことばっかり言ってると、空亡に押し潰されちゃうぞ☆」
俺 「あぁ?潰せるもんなら潰してみろよ(笑)」
…
俺は今にも押し潰されそうだった。
コイツが彼女の言ってた『空亡』なのか?
走馬灯のように思い出している中で、俺は変に想像してしまった。
「ヤツに追い付かれたら、どうなるのだろうか?」と…。
本当に押し潰されるのだろうか?
例えば、四肢が切断され、血が飛び散り、内臓やら脳味噌やらを撒き散らして、誰なのか個人が特定できない程 むごたらしく殺されるのだろうか?
それとも全く違い、触れた瞬間に漆黒の闇に呑み込まれ、一生 暗闇の中で生き地獄を味わうことになるのかもしれない…。
想像するだけで怖かった。
そしてそれらの想像が、また俺の精神を追い詰めてゆく。
しかもこの黒い塊、曲がり角 以外の速度が異常に早い。