ご本人の言い方をあまり変えずに、実際に体験したというお話を、お伝えしたいと思います。

―当時26歳だった、本山武さん(仮名)のお話ですー

当時、独身サラリーマンだった僕は、道路に面した小さな一戸建ての住宅に住んでいました。
玄関のドアを開けるとほとんど目の前が道路という、敷地面積ぎりぎりに建てたのだと一見してわかるような家でした。
しかし、家賃の安い割には交通の便がよい場所にあり、安月給の僕には、そう悪くもない条件だったのです。

あの日、数日間の出張から帰ってみると、僕の家の前の路面に、脇にある電柱から玄関にかけて、大きく黒っぽい染みのようなものがついていました。
『誰かが何かをこぼしたんだろう』ぐらいに思った僕は、深く考えることもなく、家に入りました。その夜のことです。ドンドンドンドン、という物音で、僕は目が覚めました。
時計を見ると午前3時です。
いったいなんだろう、と不審に思いながら、僕は玄関に出てみました。
すると、安普請の薄いドアが揺れるような勢いで、何者かが外側からドアを叩いているようです。
「……何の用ですか?」
僕は玄関の明かりをつけると、ドアの前に立って、向こう側に呼び掛けました。
しかし、その何者かは僕の声が聞こえなかったのか、返事もせず、いっそう激しくドアを叩き続けるのです。
ほうって置けば、ドアが破られそうな勢いでした。
ドアの覗き窓から見ると、ドアの前に居るのは若い女のようでした。
一瞬、子供かと思った程背が低く、上の方にある覗き窓からは頭のてっぺんしか見えません。
女は僕が覗いている気配に気付いたらしく、叩くのをやめ、上を向いて覗き窓のほうへ、ぐっと顔を寄せてきました。
血の気が引いたように白い顔がいきなり魚眼レンズいっぱいに広がり、僕は驚いて後退りました。
「こんな時間にすみませんけど、お願いですから、助けてください」
切羽詰まった声が聞こえてきました。
何やら、ただならぬようです。
僕はチェーンをかけたまま、細くドアを開けました。
そのロングヘアの頭は僕の胸のあたりまでしかありませんでした。
息を切らし、引きつったような表情で、上目遣いに僕を見ています。
「いったい、どうしたんですか?」
「大切なものを、この家の前でなくしてしまって。でも、暗くて、いくら探しても見つからないんです。一緒に探してください。お願いします……」
隙間からじっと僕を見ている女の目は異様なまでに見開かれ

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