年末、図書館にて、年明けに提出するレポートの追い込みに入っていた。
ギリギリまで現地調査ばかり行ってて、肝心の文章にまとめてなかった。
私の課題は、四国の風土、郷土史に関するモノで、この一年間いろんな所に行った。
そのどれもオカルトチックな場所で、
先日も故・宜保愛子先生が霊視したとかいう、大きな池に行ってきたばかりでした。


元来ビビリ性の私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。
ウチの大学のウリは無駄に大きい図書館で、一般の誰でも入れるのだが、いつもガラガラだった。
私がPCを高速でタイプしている向かい側で、助教授の泉先生が分厚い本を読んでいる。
冬休み中の図書館の鍵は、泉先生が管理していた。
相方・・・私の彼女も、隣で本を読んだりして、初めは静かにしていたが、
すぐに飽きたのか、私と先生にちょっかいをかけはじめる。
小動物の様なウザさだ。
ノーリアクションの先生に、相方は「あははー先生は本の虫ですねぇ」と言った。
すると泉先生は「居るよ?」と、本から視線を上げ、「本当に居るよ、本の蟲は」と言う。
「まぁ生き物じゃないから、『在る』と言う方が正しいか・・・」と、栞を挟んで読書を中断する。


「図書館に寄贈される本の中には、タイトルも内容も書かれていない白紙の本が入っていて、
 殆どの人がそれに気づかないんだ。
 どんなに管理の厳しい図書館でも、必ず一冊は入っているらしい。
 もちろん、ワザト入れてるんだけど・・・」


先生は周りの本棚を見渡し、


「これだけたくさんの本があるんだから、本から思念や言霊が染み出してきてもおかしくは無い。
 それを『本の蟲』っていうんだけど、そいつらは精神衛生上、人体にあまり宜しくない働きをする。
 知恵熱だとか焦燥感とか。時には命に係わる・・・
 それらを集める為に、白紙の本を置いておくらしい」


そう言うと先生は、背を向け本棚に向かい、何かを探し始めた。
「始めは白紙のその本なんだけど、ずっと置いておくと、
 『本の蟲』がたくさん集まって来て、遂には白紙じゃなくなるんだ。
 文字の書かれた本になる」


また与太話を・・・と思っていると、「ああ、『在った』」。
先生は振り向いて、「在ったよ。本の蟲の――」。
そう言うと、一冊の本を持って来た。
ハー

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