幼いころの記憶が鮮明にある
3~4歳ころ
親戚中が家に集まる大きな法事
幼い私には退屈な時間でしかなかった
読経がはじまると
玄関先の和室に人形を持ち込み一人遊び

すーっと玄関の戸が開くと
見慣れないお爺さんが顔をにゅーと覗かせた
「あ、お客さん」
誰かを呼びに行こうとすると
お爺さんが手招きをする
降りていくとお爺さんは私の頭を撫ぜて微笑んでみせた
大きな手でその感触ははっきり残っている
庭石の上を泳ぐように移動し門柱の外にでたお爺さん
黒いマント姿で黒い山高帽子を被り優しい眼差しを向けていた
慌てて祖母を呼びに入ると
僧侶の読経はより大きく力を込めて響き幼い私の声はかき消されそうになった
「お客さん」
それでも祖母の耳元で強引に告げた
祖母と母が慌てて玄関で確認したものの
開かれた引き戸の向こうには誰もいなかった
「帰りはったのかな」
そういう私を祖母と母は勘違いねと一笑に付した

門柱は内側から頑丈な鉄棒が横に刺さり
幼少の私は背伸びをしても届かない
まして外側からそれを開けて入ってくることなど不可能なのだ
父が「幽霊なら別だけど…なあ」と笑った
法事の主役の祖父の遺影を見ながら
「似ている…」心で何度も呟いていた 

 

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