これは多分、夢の話です。
と言うのは、あまりにリアルだったので、夢か現実か分からないのです。

私は、電車に乗っていました。
その電車には、私とお婆さんしか乗っていませんでした。
そして、私とお婆さんは、話をしていました。
何の話をしていたのかは、覚えていません。
そんな中、アナウンスが車内に流れました。

『次は〜、イトスギ駅〜、イトスギ駅〜、お出口は右側〜』

このアナウンスは、ごく普通ですね。
しかし、突然アナウンスの声に抑揚がなくなり、変なセリフが流れました。

『次の駅は、降りたらもう戻れません。あなた方の責任です』

このアナウンスが流れている間は、なぜか声が出ませんでした。
アナウンスが流れて、10秒後、お婆さんが言いました。
「次の駅で、降りてみようか」と。
他の言葉は覚えていないのに、この言葉は色濃く覚えています。
私は拒否したと思います。私の性格的にそうですし、何よりもう戻れないというのが嫌だからです。
けれどお婆さんは私の腕を引き、電車を降りてしまいました。
誰もいなくなった電車は、すぐに走り出すと、闇にゆっくりと溶け込んでいきました。
このイトスギ駅に改札はなく、そのままホームを降りると。
そこは一面、焼け野原でした。
ところどころには人がうずくまり、苦しげな声をあげている人もいます。
お婆さんはまた言いました。
「今から、絶対に何も考えたり、何かを見たりしてはいけないよ。何も考えずに、わたしの背中だけを見ているんだ」
その理由は分からなかったけれど、お婆さんの言う事を聞きました。


30分くらい経ったのでしょうか。
お婆さんは私を地下シェルターに案内しました。
そしてシェルターの中にある棚をどかします。
とても重そうなのに、お婆さんは軽々と横にずらしたのです。
お婆さんは私を扉から出るように促し、一輪の花を渡してくれました。
そこには扉があり、私はそこから出ました。
扉から出る時、聞こえた言葉は、今も忘れられません。

『くそぉ!逃がしたァァァァ!!!』

あのアナウンスの声でした。

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