これは福祉介護関連の仕事をしている母から聞いた、大分前に聞いた話にも関わらず印象深く残っている話。
その日、母はある認知症患者の担当をしていた。その患者はかなり認知症が進んでおり、青年期あたりまで記憶が退行していた。ある日、その患者が母を引き止め、以下のような話を始めた。
患「母さん、(これは私の母を、患者の母と勘違いしての言動)今日怖い夢を見たんだ。」
母「あら、どんな夢だったの?」
患「夢が始まった頃、俺は車に乗っていたんだ。全く見慣れない風景で。それから、しばらく運転して交差点を通り抜けようとした時、ありえない大きさの車(後々分かるが、今で言う10トントラック)が出てきて、俺のブレーキも間に合わず、その車にぶつかってしまったんだ。」
母「それは怖い夢だったわね。」
患「でもそこで終わりじゃないんだ。車にぶつかる前に閉じた目を開けると、そこには大きな川と、やけに広い河原が見えたんだ。とりあえず川を渡ろうと思って、川に入って対岸へ向かうと、川の三分の一くらいのところで、妙な格好をしていて、槍を持った、兵士みたいな人が二人現れて、俺のことを今来た方へと押し戻して行くんだ。岸に上がって、ふと俺の服と兵士の服を見ると、全く濡れていないんだ。不思議だなぁ、なんて思っているとその兵士が何やら口を動かしている。最初は何をいっているのだろう、声が小さいなと思っていたんだけど、いきなり「△△(患者の名前)!」って聞こえて、驚いて目が覚めたんだ。」
この後の話は特に意味はなかったので割愛するが、不思議に思った母がカルテなどを調べると、この患者が30代の頃、10tトラックと事故を起こしており、3日間生死を彷徨っていたことが分かった。さらに調べると当時のニュースになるほどの大事故であり、患者の夢の内容と合致していた。典型的な臨死体験の話ではあるが、認知症で忘れた記憶が夢で再生されるほど、患者にインパクトのある出来事だったのか、それとも何か理由があるのかは分からないが、先にも述べた通り印象深い話。