子供の頃の話。実話かどうか自分にも分かりません。人の話や夢、何かで読んだ、もしくはそれらがいつの間にか混同されてしまったのかも。
まだ小学生だったと思う。
いつもは父親と入っていた風呂に一人で入る事になった。特に理由なんかは無い。その日は時間が合わなかっただけだろう。
当時の家の風呂は長方形をビニール素材で繋いだ巻き取れるタイプの蓋を使っていた。お湯を貯めてから時間も経っており、家族も先に入っていたので足し湯をする為に少しだけ蓋を丸め、お湯を入れる隙間を開けた。
その時浴槽の湯に浮かぶ1つの目を見てしまった。目玉ではなく人の顔についているような瞼のありそうな目で、こちらを見ていた。隙間いっぱいに広がるその目は考えられないくらい大きい。怖いというより頭が真っ白になり思考が止まった。そして蓋を閉め、浴槽の前で暫く立ち竦んでしまった。
だんだん怖くなって来たが、何故か親や家族を呼ぼうとは考えなかった。子供の頃は変に人受けを気にする性格で、この時も怒られる、自分でなんとかしないとと、考えてしまった。
そこで取ったのは湯を抜くという方法だった。目を見ないよう、視線をそらしながら素早く蓋を開け、栓と繋がっているチェーンを引っ張る。すぐに蓋をしてそのまま湯が抜けていくのを待った。子供の浅知恵だが、何とか対処したぞと少し誇らしく蓋を戻した浴槽を見下ろしていた時、何かが自分の足元を横切った。
さっきの巨大な目の一部だった。横切ったのではなく浴槽をすり抜けて足を掠めてはまた戻っていく。横切ったのではなく、回っているのだ。湯が抜ける際に最後に小さな渦を作る。その渦にのまれて回転している目が浴槽から自分の足すれすれを何度も通り過ぎていく。一気に恐怖が襲ってきたが動くことができず、そのまま早く流れてくれと願いなが立ち竦んでいた。
最後に浴槽に引っ張られるようにようやく目は消えてくれた。流石に蓋を開けて確認することなどできず、何もせずそのまま風呂場を出て、自分の部屋に逃げ戻った。その後も誰にも言えず暫く風呂が怖くて仕方なく、決して一人で入る事はしなかった。
時間が経ち、自分の中では夢のような感覚で覚えています。その後目は現れた記憶はありません。そもそも記憶ですら無いかも知れない話ですが、同じ現象や話を聞いた方は是非教えて頂きたいです。