これは、
私が27歳の時に、
実際に体験してしまったお話です。


結婚式を目前に控え、
これからの新居を探したりと、
いろいろと、しなければいけない
慌ただしさの中で、
ある夜、私は、結婚相手の
マンションで眠っていました。

もちろん、
結婚相手も一緒に、
ダブルベッドで眠っていました。

二人で深い眠りについていると、
ふと、私の右足に違和感を感じました。
私の右足に誰かが
しがみついているのです。

例えれば、
木登り、木を登っていく体勢
のような感じでした。
両手両足を、右足に絡みつけるような
そういう感じでした。

もちろん、
私と結婚相手以外は、
誰もいませんでした。
戸締りもしていました。
誰かが、部屋の中へ入って来たとは、
到底考え難い状況でした。

目は瞑っているものの、
すでに意識はあり、
しがみついているのも
わかりました。

私はすぐに、結婚相手がふざけて
しがみついているんだろうと、
思いました。

そして、
結婚相手が横で眠っては居らず、
私の右足にいる、
という確信があったので、
確認するべく、目をうっすら開き、
横を見ました。



すると、
横には、結婚相手が少し寝息を立てて、
眠っていました。

と同時に、一瞬、身体が凍りつき、
目だけは動かせるのですが、
そのまま、身体は動かすことが
できなくなっていました。

恐怖に襲われたまま、
必死で、横で眠っている結婚相手の
名前を呼びたかったのですが、
声が出なかったのです。

そして、
私の目は、もう完全に
恐怖で見開いています。

必死で、結婚相手を見ていました。

「助けて!………」

と……。

冷や汗が出てきて、
右足に、さらに強く、その誰かが、
しがみついてきていました。

私は、

「もう………、だめだ……!」

と、一瞬頭をよぎった瞬間、

「南無妙法蓮華経…」

「南無妙法蓮華経…」

「南無妙法蓮華経…」

「南無妙法蓮華経…」

「南無妙法蓮華経…」

「南無妙法蓮華経………………。」

を、無意識に繰り返していました。

何度も………、何度も………。

何度も………、何度も………。



そして、
気がついたのは、翌朝でした。

もう、
誰もしがみついては、いませんでした。



ただ、
あの感触を、右足だけは覚えています。

今でも、
しがみつかれたあの感触を、
右足だけは覚えています……。


十年以上

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