真夏の夜、大親友のKとN神社に蛍を見に行った。
Kは俺の家に泊まりに来てた。
家からN神社までさほど遠くないので、まぁ休憩がてら行くって感じのノリだった。
N神社に着き、蛍をじゅうぶんに見たのでそろそろ帰るか、となった時、境内の奥から何かが歩いてくる音がした。
ジャク、ジャク、ジャク
石を踏む音。
「なあ、なんかやばいんじゃないか?」
とKに言う。
そして奥から歩いてくるものの足音が止まる。そして、その何かの姿が見えた。
着ぐるみだった。
どこかで見たことある茶色いくまの着ぐるみ。
はっと息を飲んだ。人間はやばいことになると叫び声も出ず、頭も回らない。
無言で全速力でKとN神社の裏に回り込んだ。
はぁ、はぁ、と深呼吸をする。
耳をすますと、ジャク、ジャク、と着ぐるみが歩きまわる音が聞こえる。
そしてまた音が聞こえなくなる。
頭に物凄い耳なりが走る。
Kが「なぁ、あれ…。」
と消えそうな声で言う。左を見てみると、
あのクマの着ぐるみがそっと顔を出し、手を振った。
「あああああ!!!!」
と叫んで家に走る。
うしろを見てみると、顔がとれそうなぐらいガクガク頭を揺らしてクマが走ってくる。
家に飛び込みうしろを見ると、もうあの着ぐるみはいなかった。
それから数週間たち、夕方トムとジェリーがやっていた。
なんとなく見ていると、ゾっとした。
あのクマがアニメに出ていたのだ。
その話は「ダンスは楽し」というものだった。でも確かにあのクマだ。
まだN神社の境内を歩きまわっているのだろうか。ゆっくり顔を出し、手を振ったあの瞬間は今も鮮明に覚えている。