何年ほど前の話になるでしょうか。
正確には覚えていません。

その時の私は小学生で、1人黙々と机に向かっていました。学生の定番、宿題ですね。
私の住んでいる場所は、昼は農作業を営むご年配の方が楽しげに会話を交わし、夜は夏場だと蛙の鳴き声が響く、所謂田舎という所です。

当初、隣には田圃が広がっており、よくそこで遊んだものです。(私の家の土地ではないですが)

話を戻しますと、私は兎に角宿題を終わらせることに必死でした。母が風呂に呼んでくれたのも無視し、ひたすらに目の前の課題に取り組んでいたのを覚えています。

私の家では、主な私生活は2階、風呂だけは1階で入っています。父は仕事で不在、母と妹が風呂に行ってしまった今、2階には当然私しかいませんでした。


早く勉強を終わらせて、ゲームをしよう。
その一心で、鉛筆を走らせていた時です。


家の外で、男の人の声がしたんです。
丁度、20時過ぎくらいだったでしょうか。
こんな時間に、それもこんなど田舎で外に人がいるなんて、珍しいこともあるものです。経験上、初めてだったと思います。
ですがその時の私は、
「近所の叔父さんが犬を連れて夜の散歩でもしているんだ」
その程度にしか思っていませんでした。

ですが、その声はずっと聞こえてきます。
何を言っているのかは遠くて聞き取れませんでしたが、流石に不審に思った私は、近くの窓から外を覗きました。


暗闇の中に、人なんてどこにもいませんでした。

隣は、先程も言った通り田圃が広がっているだけです。今思うと、道で人が歩いていない限り、隣から声が聞こえてくるなんて、とてもではありませんが考えられませんよね。

ですが、その時の私は不審に思いつつもも、私は再び勉強机に戻ってしまったんです。その後のゲームのために、じわじわと湧いてくる恐怖を、無理矢理押さえ込みました。

もうすぐ終わるから大丈夫。さっきのは気のせいだったんだ。
自分にそう言い聞かせながら、鉛筆を再び握りました。


その直後でした。


『 』


耳元で、あの男の声がしました。
地の底から這って来るような、低い声。妙にリアルな息遣いで、まるで本当に囁かれたようでした。

背筋が凍る、初めてその感覚を覚えました。
私は一目散に1階へと走り出しました。


怖くて怖くて怖くて、泣き出しそうになりながら。
階段へと向かった瞬間、廊下に干してあった服がばさり

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