その頃僕は、結婚の約束をした彼女がいた。
彼女も好きだったが、彼女の両親も大好きだった。

なにかと家に上がり込んでは、家族のように一緒にお酒を飲んだり御飯を食べたりと、まるで息子のように可愛いがってもらっていた。

ところが、ある日。
彼女のお父さんが倒れた。
末期ガンだった。

もう手の施しようもない状態だった。
僕は出来る限り毎日、病院に通った。

枕元で僕はお父さんの細くなった手を握り、彼女を幸せにすると約束した。

ある日仕事で遅くなり、終電で家に帰った。
部屋の灯りをつけた時に気付いた。

壁の時計が止まっている。
みると目覚まし時計も。
置き時計までが、全て同じ時間で止まっている。

その時、家の電話が鳴りだした。
彼女からだった。

お父さんが、お父さんが‼︎
それだけ言うと彼女は泣きくずれた。

お父さんが亡くなったのは、僕の部屋の時計の針が示していた時間だった。

あいつを頼むよ。
最後にお父さんが挨拶にきてくれたのだと、僕は思った。

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